~あてんしょん~
この小説は当方のオリジナル楽曲「王女の舞踏」の小説版です。そして百合です。
楽曲はこちら。
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〈登場人物〉
・miki
主人公。とある王国の王女。お忍びで舞踏会に参加。
・いろは
男装の麗人。mikiの幼馴染でずっとmikiのことを想い続けている。mikiにお仕えする騎士。
・ついなちゃん
上流階級の貴族の娘。幼い頃にmikiに一目惚れし、今でもmikiのことを想い続けている。舞踏会でmikiと再会。
mikiは一国の王女。今夜、彼女は父親にお忍びで舞踏会に参加するように言われ、夜の舞踏会の会場へ行くため、馬車に乗った。もちろん、彼女にお仕えする騎士であり幼馴染でもあるいろはも一緒にいる。漆黒の夜空に浮かぶ満月の月光が、夜の街を照らしている。
「王女様、本当によろしいのですか?」
「いいの。これはお父様からの命令だもの。」
「さようでございますか・・・。」
mikiからの返答に、いろはは哀しそうな様子を見せた。実は、彼女たちは幼いころに婚約をしており、このことはまだ他の者たちに知られていない。彼女たちは駆け落ちしてこの国から逃亡してふたりで幸せに暮らすことにしているのだ。だが、mikiはこの約束を忘れていた。幼かった彼女は当時、「婚約」や「結婚」がどういう意味なのか、恋愛をすることがどういうことなのかを知らなかったのだ。
「着きましたよ。王女様。」
「え、もう着いたの?」
それから数十分後、舞踏会の会場に辿りついた。馬車に乗っている間、mikiといろはは楽しそうに歓談をしていた。
(着いてしまったか・・・。)
いろはは自分の心が痛むのを感じた。舞踏会では騎士やメイドなどが本人と一緒に行動することが禁じられているため、いろはは馬車の中で待つしかなかった。だが、そんな彼女の思いなど知ることもなく、mikiは馬車から降りた。そんな彼女に、いろはは心を殺してそう言った。
「楽しんできてくださいね。あとで、思い出話もお聞かせください。」
本当は聞きたくもない話ではあるが、騎士として私情を表に出すことなく、いろははそう言ったのだった。
「ありがとう。では、行ってくるわね。」
いろはにそう言い、mikiはいつもとは違うデザインのあまり豪奢ではないドレス(王女の身分を知られないようにするため、いつもの豪奢なドレスではない)を身に包み、舞踏会の会場の建物へと入っていった。
いろはは、そんな彼女が建物に入って後ろ姿が見えなくなるまで、彼女の後ろ姿をずっと見つめていた。
(社交場は慣れているけど、何故か落ちつかないわね・・・。)
mikiはたくさんの人々が踊るこの舞踏会の会場で、先ほどから辺りを見渡してばかりだった。すると・・・
「そこのあなた様。」
「え?」
背後から声をかけられ、mikiは振り返った。そこには、巻き髪にした淡いピンクのツインテールの少女の姿があった。上流階級の貴族なのだろうか、なかなか豪奢な赤とピンクを基調としたドレスを身にまとっていた。
「うちと一緒に踊りませんか?」
「あ、はい。私でよければ・・・。」
mikiは差し出された彼女の手をとった。互いの自己紹介をしたあと、ふたりは踊り始めたのだった。
mikiに声をかけてきた少女の名は、ついなといい、周りの者たちからはついなちゃんと呼ばれているそうだ。そして、彼女はやはり上流階級の貴族の娘だった。
舞踏会が終わり、mikiは馬車へ戻ろうとしていたところ、ついながmikiを引きとめた。
「ついなちゃん?」
このときには、ふたりは素の口調で話す仲になっていた。
「今日はうちの家に泊まっていかへん?」
「え?」
mikiは返答に悩んでいた。ついなが傷つかないように言葉を選ぼうをしているのだ。もちろん、このままmikiがついなの住む自宅に泊まりに行ってしまえば王室で騒ぎが起きてしまうので彼女は断るつもりなのだ。すると・・・
「君、うちのひ・・・いや、お嬢様と踊ったのか?」
「「!?」」
いろはがふたりの前に姿を現した。
「いろは、どうしてここに?」
「miki様のお帰りが遅いので心配で身に参りました。」
「心配かけさせてごめんなさい。今行くわ。」
mikiはいろはのもとへ急いだ。すると、ついなは不思議そうな表情をいろはへ向ける。
「miki、その御方は・・・。」
「私の騎士よ。それより、あの子(いろは)を心配させるわけにはいかないから私はここで失礼するわね。」
「待って!」
mikiがついなから離れようとすると、ついなは再びmikiを引きとめた。ついなにとって、mikiは一度かつて会ったことのある相手であり、初恋の相手でもあった。幼いころ、ふたりはたまたま公園で出会い、一緒に遊んだことがあったのだ。ついなはそのことを今でも覚えているし、いい意味で忘れられない思い出でもあった。だから、ついなはmikiの正体を知っていたし、ここで彼女と離れたくないと思っていたのだった。
そんなふたりの様子を目にしたいろはは、全てを察したのだった。
(miki姫はあの少女と親しくなってしまったのか・・・。)
そして、再び彼女は自分の心が痛むのを感じたのだった。
一方、mikiはついなから離れようとするが、一方で彼女との別れを惜しむ自分と、早く帰らなきゃいけないと思う自分と両方彼女の中で存在していた。ハイヒールを履いた彼女の脚が震えていた。